西 東 京 稲 門 会

美 術 愛 好 会 アーカイブ 〜2018年


カール・ラーション展
(日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念)
12月11日(火)於:東郷青児記念 損保ジャパン日本興和美術館  参加:10名

 ジャポニズムの強い影響を受けた、知る人ぞ知る、スウェーデンの画家、スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家、と言われています。
油彩、水彩画、版画に挿絵、それに自宅インテリアを彩った小物(自身が絵付けした皿など)まで100数十点展示され、彼の類まれなる多才ぶりがうかがえます。また、特に水彩画は、家族をモチーフとしたものが多く、心温まるものばかりでした。
 眺めの良い42階にあるこの美術館、2019年の9月には一時閉館。2020年春に隣接地(低層)にリニューアルオープンとのこと。ここの眺めも楽しみのひとつだったので(もちろん常設のゴッホの「ひまわり」も)、ちょっと残念。

12月と言えば「忘年会」、美術愛好会の面々も当然のごとく(?)、新宿西口界隈の居酒屋に繰り出し、熱い鍋をつつきながら、芸術談議に花を咲かす。(はずが、そんなことはおくびにも出さず、和気あいあい、わいわいがやがや、と宴は続く…笑)   (おがた記)

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1月9日(水) 15:50
皇室ゆかりの美術―宮殿を彩った日本画― 山種美術館


美術愛好会 ルオー展

 美術愛好会会員5名は新橋駅近くのパナソニック 汐留ミュージアムでジョルジュルオー展を鑑賞しました。

 ルオーは敬虔なカトリック教徒として、生涯にわたって「キリスト像」や「受難」「苦難」をとことん追求、自身の人生をオーバーラップさせるとともに、彼の生きた時代の2度の世界大戦下の人々の生活の困窮さ、不安定な社会状況を描いた作品を数多く残した。特にキリストとは正面から向き合い、自身の画家としてのパッションを聖なる芸術として高め、人間としての苦悩や受難の心を表現し描いている。
 また、戦後の作品にはルオーの心の成長を見るかのように、キリスト教ビジョンをほのかな慈悲の心を持って描き、聖書の風景を穏やかで静謐な雰囲気を醸し出している。
 ルオーの作品を初期のころから晩年に至るまでの作品群を鑑賞できたことは、画家の絵画技術の習得の度合い、精神的成長などが見られ、非常に有意義な会であった。
 鑑賞後は隣接ビルのレストランで晴天の東京の街を見下ろしながらランチを楽しみました。いつも企画・手配をしていただく小嶋・浜野両幹事には深く感謝いたします。
(野口昇一記)

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 12月11日(火) カール・ラーション展
  日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念
  16:50 損保ジャパン日本興亜美術館


没後50年 藤田嗣治展

10月5日、台風接近の雨の中、東京都美術館で「没後50年 藤田嗣治展」を鑑賞した。(参加者7名)

人生の約半分をフランスで暮らした藤田嗣治(レオナール・フジタ1886−1968)の“史上最大級”の回顧展として大盛況であった。展示は、風景画、肖像画、裸婦、戦争画、宗教画などテーマ別でわかり易く、120点余を通して、彼の業績の全貌とは言えないまでも知り得たような高揚感があった。
彼独自の「乳白色の下地」と呼ばれた裸婦像が絶賛され、1920年代後半、エコール・ド・パリの寵児のひとりになる。しかし、パリでの成功以降存命中は、日本では評価されず決して居心地の良い地ではなかった。彼の死後見直され、日本で展覧会などが開かれるようになる。
目玉の裸婦像のほかに、「キュビスム風静物」、「巴里城門」、「二人の女」がそれぞれピカソ、アンリ・ルソー、モディリアーニの影響を受けたと思われる作品もあり興味深かった。新天地中南米での画風の変貌、また、死の間際までフレスコ画に挑戦するエネルギー、生命力に驚嘆のほかない。晩年、フランスに帰化後、再び日本の地を踏むことはなかった。


鑑賞後、上野公園近くのフレンチレストランにて、ブルゴーニュの赤ワインと美味しいフランス料理いただく。最後まで気配りの浜野幹事に感謝。(古賀良郎 記)

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愛のすべて ジョルジュ・ルオー展
11月16日(金)11:00
パナソニック 汐留ミュージアム 11:00


芸術の秋到来!

美術愛好会会員6名は上野の国立西洋美術館に集合。奇跡の初来日、ミケランジェロ展を楽しんだ。

彫刻家、画家、建築家のすべての分野で名をなした「神のごとき」と称された男ミケランジェロ。システィーナ礼拝堂に描いた<最後の審判>等あまりにも有名な作品も多いが彼がこだわったのは彫刻家という肩書でした。
 サン・ピエトロ大聖堂の「ピエタ」で世にその名を知らしめる数年前、20才を過ぎたばかりのミケランジェロが早熟な天才ぶりを発揮した作品<若き洗礼者ヨハネ>。そして聖書の英雄ダヴィデか、ギリシャの神アポロか。未完ゆえに作品の主題でさえ謎に包まれ、同時に、表面を滑らかに仕上げずに残されたノミ跡がミケランジェロの生々しい制作過程を伝える<ダヴィデ=アポロ>。力強さと気品、躍動感と安らぎ、清らかさと色香ーその完全なる調和はミケランジェロが50代半ばを過ぎてようやくたどりついた美の境地だ。
 ミケランジェロの世界に現存する約40点の大理石彫刻のうち上記2点が初来日を果たした。この2点を核に古代ギリシャ・ローマとルネサンスの作品約70点の対比を通して両時代の芸術家が創りあげた理想の身体美が表現された。
 入口から出口まで、これらの作品に圧倒され、又、うっとり。500年前の時を感じさせぬすばらしい彫刻の世界であった。 (美術館パンフ - 小嶋 弘記)

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  10月5日(金) 藤 田 嗣 治 展 11:00 東京都美術館


縄文展

 「縄文」とは我々にとって何と郷愁にかられる語だろうか。またその時代が1万年ちょっと続いたなんてほとんどの人が知らないだろう。
 8月3日、美術愛好会の6人は今年の異常な酷暑にもめげず東京国立博物館の平成館に集合。今回は、特別展・「縄文・1万年の美の鼓動」の鑑賞をすることになった。

 夏休みのため予想に反して大盛況。親子連れも多かった。第一室の小品の展示はかなりの人だかりで全然見られない。思い切ってパスすることにした。
 この特別展の目玉は、至上初、縄文の国宝6点がすべて展示されていること。ここだけを主に見ることにした。国宝室として一室設けられていて以外にゆったりと鑑賞できた。
 一番人気は何と言っても縄文の国宝第一号の土偶「縄文のビーナス」である。妊娠中のお腹の膨らみ、かわいい乳房、極端な下がり目、まさにこれぞ縄文といった感じである。この土偶をビーナスと名付けた方の感性もすごい。
 他の国宝土偶4点、火焔土器1点もそれぞれユニークで見応えがあった。
 縄文の土偶の美を激賞したのが、岡本太郎だとのこと。改めて彼のセンスを再認識させられた。見逃した中にも多くの良品はあったと思うが、作品を見ていた時間少しでも縄文人の生活、気持にふれることができた、めったに見られない展示会であろう。
 いつもクイズ、券など手配してくださる浜野さんに深謝いたします。 (河村洋子 記)

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 9月7日(金)
 ミケランジェロと理想の身体 天才の生み出した傑作 奇跡の初来日!
 国立西洋美術館 11:00


琳派展鑑賞

 7月6日、雨の中6人で広尾の山種美術館へ琳派展を見に行く。
桃山時代後期から近代・昭和まで活躍した、同じ傾向の表現手法を用いた造形芸術上の流派作品展である。琳派と称しても一門子弟の派ではなく、私淑でつながっている。つまり心の師として尊敬し学ぶ一派である。
 俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一が一派の伝統。
そのデザイン性、大胆な構図は絵、扇,団扇、歌留多、蒔絵、着物などに表現されている。
金地に描かれた花鳥風月、小鳥、鶴、鷺、兎、鹿、そして梅、桜、菊、楓、竹、芝、苔など日本画の対象を、きらびやかにしかもしっかりと落ち着かせている。
 山種美術館は昨年10月美人画展を見て以来で、今回の美人は紫式部、伊勢物語の高安の女、36歌仙の4人の女性で、齋宮女御は帳の陰で会えなかった。琳派の特徴を昭和になってさらに強調したグラフィックデザイナーが田中一光で別室に展示。

 見終わって恵比寿の巷へ彷徨い出て、平成のパスタをくらう。(金子正男 記)

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8月3日(金)縄文 特別展 
1万年の美の鼓動 ニッポンの、美の原点。
東京国立博物館 11:00


美術愛好会 「ターナー展」感想

「困っターナー。」
クイズを作っておいて、背景をよく知らないという自分がそこにいた。

Nさんの「ターナーの絵に触発されて明治時代に流行った水彩画の日本の画家を教えて欲しい。」
当然の質問だ。
慌ててネットを開き、これをテーマにした展覧会も開かれていることを知り、したり顔で繕った。
「困っターナー。」
K さんのからは「ムーミンはどこの国のキャラクターだったっけ?」
フィンランドまでは合っていた。西武線にあるテーマパークは「あけぼの子どもの森公園」だった。しっかり調べておらず迷惑千万。
「困っターナー。」
ランチのレストランが見当たらない。初めての訪問美術館だったため、駒がない。
ネットで調べ、近くの和食を候補にしたが、たまたま美術館行きのエレベーターの中に隣の野村ビルの50階のレストランが展覧会半券で10%オフというのを見つけ、相談したところそちらに。すぐに入れ、ラッキーだった。
「駒っターナー」の半日だった。
…お後がよろしいようで。 (浜野 伸二記)

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 7月6日(金) 琳派特別展 俵屋宗達から田中一光へ
         11:00 山種美術館


「大名茶人・松平不昧−お殿様の審美眼」

やや肌寒い5月9日、美術愛好会は「大名茶人・松平不昧」−お殿様の審美眼―を三井記念美術館にて鑑賞しました。

大名茶人として名高い松平不昧は藩主となると、藩財政を立て直した名君ですが、生涯にわたって禅学に励み、茶の湯を好み、茶禅一体の茶の湯を極めた。特に江戸後期の遊芸化した茶道に異を唱え、利休の茶道の心を尊重、その精神に帰ることを提唱した。不昧は名物茶器を記録した「古今名物類聚」の出版、蒐集した茶道具を記録した「雲州蔵帳」は評価が高く、優れた茶道具の、散逸を防いだ。不昧が収集した茶道具の多くは、茶の湯に対する深い精神性や感性、茶道具に対する烽「美意識や鑑賞眼を窺わせるものである。今回の展覧では、不昧の審美眼を感じながら、不昧が蒐集した国宝、重文の茶道具の数々、大名家ならではの唐絵(水墨画等)墨蹟(尺牘、手紙)唐物茶器(梅花天目茶碗等)などが数多く展示されている。さらに不昧は蒐集した名品を蒔絵師、塗師や木工・陶工に見せ、彼らの創作意欲や技術、能力を最高度に発揮させ、不昧の美意識とともに創出、再生させた数々の洗練されたお好みの道具も展示されている。

美術愛好会は不昧に関する逸品を鑑賞した後、割烹料理「日本橋皆実」で松江の味を堪能しました。(野口昇一記)

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イギリス風景画の巨匠 ターナー展 風景の詩(うた) 損保ジャパン日本興亜美術館
6月15日(金)11:00損保ジャパン日本興亜本社ビル1F入口付近
(美術館はビル42階) 東京都新宿区西新宿1−26−1


春こそ美人の出番です

春爛漫の4月18日、「東西美人画の名作−上村松園『序の舞』への系譜」(東京藝術大学大学美術館)に行ってきました。

この度近代日本画家の巨匠上村松園(昭和23年女性初の文化勲章を受章)の代表作で、美人画の最高傑作『序の舞』(重要文化財、昭和11年作 東京藝術大学蔵)の修復が完了し、今回一般初公開となったもので、復元された色鮮やかな縦230pもの大作は圧倒的な存在感を放っていました。
又同時に江戸時代の風俗画や浮世絵に近代美人画の源流を探りつつ『序の舞』に至る美人画の系譜が分かりやすいように作品約60件が展示されていました。
更には「東の清方、西の松園」と銘打って東京画壇、関西画壇の名手25人の美人画の競艶などの仕掛けも施されており、たいへん興味深いものでした。
「日本人に生まれてよかった」を実感させる至福のひとときでした。参加者は6人。
(高橋 ヘ門記)  (浜野 伸二撮影)

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5月9日(水) 11:00三井記念美術館「大名茶人・松平不昧−お殿様の審美眼」


ボストン美術館 パリジェンヌ展

パリジェンヌよ、ありがとう
春風駘蕩。ボンジュール・マダム、お待たせしました――。
桜が咲き競い始めた3月24日、世田谷美術館の「パリジェンヌ」展へ。時代を写す女性たちの活動的な姿に、大感激の一日となった。
 
パリ――。その名こそヨーロッパのシンボル。14世紀まで続いたカペー王朝時代に早くもフランスの中心地として世界に名を馳せた。ブルボン王朝時代に入ると、大宮殿のあるヴェルサイユに主役の座を譲ったが、ルイ14世の死去とともに再び文化の都として浮上。18世紀後半、勃興したヨーロッパ市民社会の創造の機運は、パリの空の下から盛り上がる。
フランス革命によって自由と平等に目覚めた市民たち。束縛を断ち切った女性たちが、世界史の表舞台に登場する。サロンを仕切る親分肌の女性、子供をいつくしむ堅実な母親、美の創造に熱狂する画家やモデル、知的女性に群がるファッションメーカーたち‥‥。それらは皆、庶民が主役となった近代風俗への高らかな肯定だった。
風刺画や喫茶道具から靴、ドレス、下着類まで。ボストン美術館から拝借の120点余の展示は、近代ファッションの歴史そのもの。マネの「街の歌い手」、ルノアールの「アルジェリアの娘」、ドガの「美術館にて」‥‥。風俗史への理解が進み、有名絵画の見方も変わってくる。若かりし日のブリジット・バルドーの写真、ピエール・カルダンの服飾作品も。胸に流れるは、「♪・春、スミレ咲き〜〜」。
私たちが学んだもの。それは「パリジェンヌ」とは単にパリの女性たちの意味ではないこと。それは社会的な差別と因習から自らを解放し、自律的な選択で世界のファッションの潮流を創造する人々の意味。むしろ、その文化的な概念と言った方が適切だろう。参加者は美人が大好き男5人プラス妙齢婦人のゲスト1人。余勢をかって静嘉堂文庫の「歌川国貞」展も。最後は渋谷のビヤホールで「パリジェンヌにカンパーイ」。(報告者・滑志田隆)

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4月18日(水)11:00 東京藝術大学大学美術館
東西美人画の名作 上村松園 「序の舞」への系譜 春こそ美人の出番です。


至上の印象派展 ビュールレ・コレクション

2月14日、私たち8人は国立新美術館に開催初日のビュールレ・コレクション、至上の印象派展を鑑賞しました。
ビュールレはスイスの実業家で生涯を通じ一人で美術品の収集に情熱を注ぎ、その数600点以上といわれ、世界中の美術ファンから注目されています。
ルノアール、ドガ、モネ、コロー、マネ、シスレー、セザンヌ、ゴッホ、ロートレック、ピカソ、ゴーギャン・・・印象派展には沢山の有名画家の絵が飾られていました。
ルノアールによる絵画史上最強の美少女・イレーヌ、8才。温かく幸せそうな家族の姿が人々の心をつかんだのです。
このコレクションは2020年にチューリッヒ美術館に移管されるため、その全貌を見ることが出来る最後の機会となりました(小嶋 弘記)。

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 3月24日(土) 11:00 世田谷美術館
 ボストン美術館 パリジェンヌ展、 時代を映す女性たち


フランス宮廷の磁器  セーヴル、創造の300年

西稲の7賢人フランス宮廷へ
1月24日雪の残る六本木ミッドタウンのサントリー美術館へ向かう。

「セーヴル創造の300年」という18世紀以来のフランス宮廷の磁器展示である。
ルイ15世の庇護のもと王立の磁器製作所で作られた、名品 、 逸品、宝物展で、優雅、気品に満ちた磁器最高峰の数々。
「マリーアントワネットのための乳房のボール」にうっとり。撫でてみたいが防弾ガラスの中。
皿、碗、壺、花瓶、茶器、置物などこの世のモノではないような秀品を見る。
金のきらめき、青の輝き、赤のトキメキ、目の保養、魂の滋養にもなったよう。
現在は磁器製作所と磁器美術館が統合されて、パリ西端のセーヴル陶磁都市という組織が所蔵している。
芸術家と技術者が真剣勝負で取り組んだ世界の宝物展でした。
拝観後は六本木でワインとピザで打ち上げ、少しばかり品性と鑑識眼を高めたような気持ちになって帰る。
帰宅して嫁秘蔵のロイヤルアーデンのカップ、ソーサーを眺める。「爺はサワラナイデ」というもの。
今年も浜野伸二さんの案内、小嶋弘さんの世話で、毎月美術の粋に触れる機会に恵まれる予定で、2月は印象派展が楽しみ。(金子正男 記)

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2月14日(水)11:00 国立新美術館 至上の印象派展 ビュールレ・コレクション


「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」

 私たちの肩先を師走の冷たい風が吹き過ぎていく。37歳の若さで死んだ天才画家の生涯を回顧する「ゴッホ展」(1月8日まで、東京都立美術館)には、「巡りゆく日本の夢」という懐古趣味のような副題がついていた。

 初期の「馬鈴薯を食べる人々」の連作も、アルル時代に十数点制作された「ひまわり」も無い。代表的モチーフの「麦畑」も平凡な写生画が1点だけ。それでも、なかなか手ごたえがあった。1885年、32歳のゴッホはアントワープで多数の「浮世絵」を収集し始めた。伝統的な日本美術というよりは、色彩と構図との出会いが、ゴッホの美意識を覚醒させた。そこから、ゴッホという名の画家が出来上がっていく過程がよくわかる展覧会になっていた。
 ゴッホの死後二十年を経て、彼の独特の油彩画に衝撃を受けた日本人たちが、彼の影を慕って続々とフランス旅行した。日本画家の橋本関雪の一行が記録した映画フィルムや、ガッシュ家に残された「芳名録」、式場隆三郎の翻訳のノート類・・・。それらは日本人の感性の中にゴッホがどのように侵入し、踏み荒らし、巨大な足跡を残したのかを如実に物語っていた。
 ゴッホとテオの兄弟の墓が並ぶオーヴェールの教会の裏庭。その佇まいを複写し、カメラに収め続ける日本人があとを絶たない。ゴッホは本当に死にたかったのかという疑問を抱きながら・・・。晩年のゴッホの絵には多少の狂気があるが、絶望感はない。不安だが、自分の力を諦めてはいない。麦畑の中で安物のリボルバー式拳銃で胸を撃ち、歩いて下宿に戻ったという。テオが駆けつけた時、ゴッホはベッドの上で煙草をふかしていたらしい。
 その自殺劇は、一種のあてつけというか、デモンストレーションだったのではないか。体内に残った鉛の弾は、ゴッホを悔やませたに違いない。「時間切れだ。オレはもっと描きたかった」―――。そんなゴッホの叫び声が聞こえて来る2017年の歳末だった。参加者は9人。(文・滑志田隆)

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 1月24日(水)11:00 サントリー美術館  セーヴル 創造の300年


美術愛好会「皇室の彩」展

 今回美術愛好会は秋のよそおい深まる上野公園の一角にある東京芸術大学美術館に「皇室の彩」の特別展を見学しました。皇室は古来、日本の文化を育み伝え、日本の工芸の伝統技術の継承・発展を支え、美術工芸作品を芸術の域まで高め、美の最高峰の制作に深く係わってまいりました。およそ百年前、皇室の慶事に際しての献上品の制作として、東京芸術大学が中心となり、全国の各分野を代表する作家・美術工芸家を含め、国家規模の文化プロジェクトが展開された制作された作品およびその制作に関する資料が紹介されております。   
また、皇室献上後、皇居外でほとんど公開されていない作品の数々も展示され、これらの美術工芸作品は宮殿などに飾り置かれているため、私達はもう二度とこれほど大規模に見ることは出来ないと思われる皇室が支えた文化プロジェクトの精華を堪能しました。


すみません、美術館での写真を撮り忘れました。一足早い上野駅でのクリスマスツリー!

(野口昇一 記)

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ゴッホ展  巡りゆく日本の夢
12月30日(土)11:00 東京都美術館


10月20日おじさん達6人で恵比寿へ美人に会いに出かけた。

上村松園ー美人画の精華ー 広尾にある山種美術館である。

松園の絵は殆ど昭和初期の作で絹本に彩色した香り高き珠玉の美。蛍、夕べ,春風、折鶴、牡丹雪、砧など題名からも想像できましょう。
松園のほか小林古径,伊東深水、小倉遊亀、など名品揃い。江戸末期から昭和前期にかけての、むすめ,舞妓、処女、女郎、内室、めかけ、奥女中、少女、女主人、奥、姫、女御、太夫、傾城、芸者、おかみ、嬢、芸妓、仲居、娼妓、妻君などいろいろな美人に逢いました。
そのすべての顔でお口は小さくつぼめて描かれ、大ジョッキには似合わない。お歯黒が見えるのは歌麿の1点のみ。マネやルノアールの描く脚線美や肉体美を感じさせる絵は無く、客の大部分は女性でした。
帰りは例によってワインとパスタの店でランチタイム。浜野伸二さんのお世話で名画鑑賞、感謝、乾杯。  (金子 正男 記)
 
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11月17日(金)11:00 東京藝術大学大学美術館
皇室の彩 −百年前の文化プロジェクト−
       この秋、名品とともに、皇室を知る


美術愛好会9月例会 「遥かなるルネサンス」展

秋晴れの9月29日、いつものメンバーに久々の緒方夫妻、初参加の松尾さんを交えた9名で八王子の東京富士美術館に足を伸ばしました。

1582年、イタリア人のイエズス会巡察は日本人自身の中からヨーロッパ文明の語り部となる人物を育成する目的で4人の少年達(天正少年使節)をヨーロッパに送り出しました。教皇に謁見し各地で歓待を受け沢山の見聞を広げました。メディチ家の人々の絵画や謁見、ガラス工芸など見所はいっぱい。
8年半後の帰国前には豊臣秀吉によるキリスト教の追放令等もあり彼らを取り巻く状況は苛酷なものがありましたが、彼らの事績はグローバル化が進む現代において日本のキリスト教の歴史という枠を超えて異文化間の相互理解という意味でなお一層の重みをもって私たちの心に訴えかけてきます。

モネやルノワールの常設展もゆっくり鑑賞! まさに芸術の秋でした。(小嶋 弘記)

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[企画展]上村松園 −美人画の精華ー
10月20日(金)11:00 山種美術館


地獄絵ワンダーランド

「あなたは地獄に墜ちない自信がありますか?」
そんな問いに全く答えられなくなる展覧会でした。

父母やお坊さんを殺したり、尼さんを汚したりすることは無いにしてもうそをついたり、酒を飲んだり、生き物を殺したりするだけで地獄の獄卒に身体を切り刻まれ、粉砕され、やっと死んでも、獄卒が「活きよ活きよ」と呟くと生き返りまた責め苦が繰り返されるというのが最も軽い地獄の刑というだけで、自分が犯してきた過去の悪行が思い起こされ、「少なくと今日からは…」と思わされました。
しかし、今回の展覧会はそれだけで終わらず、「ワンダーランド」が待ち受けています。「誰だって死ぬんだから、生きるばかりでなく死をも楽しんでしまおう。」というような版本や錦絵の創造力には驚かされます。特に「死絵 八代目市川團十郎」では死につつある役者を迎えに来た地獄の使者から引き離そうとする老若の女性たちの姿、またそれに止まらずメス猫まで女性たちに加勢している姿に死に向かう悲壮感は全くありません。このほかにもかわいい閻魔大王の掛け軸や地獄すごろくなどの作品の数々の面白さに最初の自問を忘れ、どうせ浄土に行ける自分ではないので、地獄に墜ちる判決が出ないように生活に気を付けつつ、死に際しては六道巡りを楽しもうという気になって会場を後にしました(参加者 7名)。(浜野伸二 記)

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 遥かなるルネサンス展(天正遣欧少年使節がたどったイタリア)
 日時 9月29日(金)11:00
 場所 八王子市 東京富士美術館
 集合 JR八王子駅北口 西東京バス14番のりば前
 ご参加の方は9月28日(木)までに小嶋宛ご連絡ください。
00-665-5448


美術愛好会「アルチンボルド」展

 暑さのなかではやや落ち着いた7月19日、私たちは上野の国立西洋美術館の「アルチンボルド」展を鑑賞してきました。
 この画家をご存知ない方もいらっしゃるかと思いますが16世紀後半に活躍したイタリア・ミラノ生まれの宮廷画家です。彼の名は何よりも果物や野菜、魚や書物といったモチーフを思いがけない形で組み合わせた寓意的な数々の肖像画で有名です(写真の案内板をご覧ください)。日本で初めてのユーモアある知略の芸術はまさにすばらしいの一語に尽きました。

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 特別展 地獄絵ワンダーランド
     8月25日(金)三井記念美術館 11:00
 入口は水木しげるの絵本の原画で始まりリアルな地獄の世界へと。そして地獄のイメージの日本的展開と近世のどこか楽しく笑える民衆的な地獄絵などの紹介があり最後に憧れの極楽へと誘います。(パンフレットより)

小嶋弘


マーベル展 報告

梅雨入り間近なるも穏やかな晴天に恵まれた6月2日、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューにて開催中の「マーベル展(時代が創造したヒーローの世界)」を観てきました。

「マーベル」の名は「マーベルコミックス」社に由来し、因みに同社は米国有数の漫画出版社で現在はウォルト・ディズニー社の傘下に入っています。
「マーベル」の名をよく知らない方も「スパイダーマン」、「アイアンマン」、「キャプテンアメリカ」、「Xメン」を生み出した会社と言えば合点がいくでしょう。いずれも映画化されています。
その「マーベル」の魅力に迫る日本初の大型総合展会場に入ると海抜250mからの景色をバックに高さ5mの日本初公開の巨大「アイアンマン」が立ちはだかり、まず度肝を抜かれます。そこからはアベンジャーズ、スパイダーマン他マーベルの作品とヒーロー達の貴重な資料、コミック、衣裳、小道具等約200点が所狭しと展示され、同時に放映もされていて、世相を反映しながら過去から現代に至るまで進化を遂げるマーベルとその世界観を余すところなく紹介するその空間はコミックファンにとってたまらない光景でしょう。
6月25日まで開催されているので家族連れで一度六本木ヒルズに足を運んでみてはいかがでしょうか。以後家の中で皆さんへの評価が一気に上昇すること請け合いですよ。
(高橋 ヘ門記)


茶の湯」特別展 報告

中国、朝鮮、日本と異なる地で焼かれた第一級の名碗たち、私たちは夏日が続く5月23日、東京国立博物館の奇跡の大「茶の湯」展を鑑賞してきました。
足利義政、織田信長、千利休、松平不昧など歴史を動かした武将、茶人たちの名碗が一堂に揃いました、国宝・重文がずらり。

12世紀頃、中国・宋からもたらされた点茶(抹茶)という新しい喫茶法が日本の禅宗寺院や武家の間で広がりを見せ、室町時代15世紀頃には足利将軍家には最高級の唐物が集められ、この唐物を愛でる「唐物数奇」の価値観は後の「茶の湯」に大きな影響を及ぼすことになります。
この時代、町衆は急速に力をつけ連歌、能、茶、花、香などを楽しみ究めるようになりました。唐物だけでなく日常の道具の中からも好みに合ったものを取り合わせる新しい風潮が生まれました、「侘茶」の精神です。
安土桃山時代、侘茶を継承した千利休により茶の湯は天下人から大名、町衆へとより広く浸透することになりました。
利休は豊臣秀吉の茶頭となり唐物に比肩する侘茶の道具を見い出しただけでなく新たな道具を取り合わせることで茶の湯の世界に新しい風を吹き込んだのです。
江戸時代、太平の世において茶の湯は変化の時代を迎えます。武家の茶の復興や公家の雅な世界を取り入れた新しい風潮です。
幕末から明治維新の混乱期には寺院や旧家から宝物や名品が世の中に放出されましたが原三渓ら名だたる実業家たちは第一級の茶道具を取り上げ伝統を重んじつつ新しい価値観で新しい時代の茶の湯を創り上げていったのです。
(参考 東京国立博物館紹介文。小嶋弘記)


ミュシャ

美術愛好会四月の例会は国立新美術館でミュシャ展を鑑賞しました。

ミュシャ(チェコ語で「ムハ」)と言えば女優サラ・ベルナールのポスター画に代表されるアール・ヌーヴォーの緻密で旋律を思わせる曲線を多用、花・星などのモチーフを用い様々な女性の姿を華麗に表現しているデザイン画が有名である。
しかし会場は、チェコ生まれのムハがスラブ民族のために書き上げた彼の代表的な絵画スラブ叙事詩を主体に展示されていました。
チェコは中欧に位置し、豊かな農産物、石炭に恵まれたため、各国から侵略を受け民族の独立の維持が難しかった。このためムハが故郷のため、民族のため心血を込め絵筆を振るい愛国心を喚起した、スラブ叙事詩、彼の平和を求める心情がひしひしと感じられました。
多分二度と「スラブ叙事詩」全20枚が日本で公開されることはないと思います。

(野口昇一記)

5月例会のご案内
特別展 茶の湯
 5月23日(火)11:00 東京国立博物館
 奇跡の開催 大「茶の湯」展  国宝、重文がいっぱいです。


茶碗の中の宇宙」展報告

 3月31日、竹橋の東京国立近代美術館で開催中の「茶碗の中の宇宙」展へ。陶磁器の陳列にしては、いかにも大迎に思えるタイトルだ。しかし、さすがは「樂家一子相伝の芸術」である。僅かな土くれが炎の力を借りて変身し、時間を呑み込んだように重量感あふれている。そんな豊穣の美をいかんなく堪能させてくれた。
 樂焼は16世紀に花開いた桃山文化の粋といわれる。草創期の窯元は、あの利休に茶器注文され、制作を開始したという。その後450年間にわたり、ひたすら手捏ねによる成形と削ぎ落としの技を研鑽し、世界に誇る樂茶碗の伝統を築き上げてきた。その命ともいえる「一子相伝」の形態とは、解説パンフレットによれば「技芸や学問などの秘伝や奥義を、代を継ぐ一人の子に伝えていく行為」なのだそうである。
 利休がこよなく愛した「太郎坊」「二郎坊」の赤楽茶碗を世に送り出した初代・長次郎。「青山」銘の黒樂茶碗で知られ、江戸文化をリードした一人に数えられる3代・道人。色釉薬を用いて動的表現に挑んだ昭和期の14代・覚入。金銀の彩色によって装飾性を極めようとする平成時代の15代・吉左衛門・・・。試行錯誤を繰り返すことが楽焼の相伝でもあり、それはオリジナリティを求め続ける芸術家魂の面目躍如と言うほかはない。
陶芸界ではこれを「楽焼における不連続の連続」というのだそうだ。難しいけれど、何となく納得できる。それは展示された約160点の陶器が、やはり一個一個の内部に宇宙を蔵しているからだろうか。これらで抹茶を一服いただければ、どんなにか旨いことだろう。お酒ならもっと良いけれど‥‥。

あの偉大なる本阿弥光悦の陶芸作品も楽しめる同展は5月21日まで。参加者は8人。ランチはパレスサイドビル地下の「いろは寿司」で。浜野さん、今回もクイズの作成をありがとうございました。満点回答者ゼロ。(滑志田 ヘ 記)


日伊国交樹立150周年記念 ティツィアーノとヴェネツィア派展

まだ肌寒い2月21日(火)美術愛好会は上野の森東京都美術館でティツアーノとベェネツィア派展を見学。15〜16世紀ルネッサンス期フィレンツェとは異なる美術の中心地としてティツアーノ、ティントレット、ベロネーゼなどの偉大な画家たちがベェネツィアで活躍し、その名作の数々を鑑賞いたしました。

ベネツィアというアドリア海に面した港町の醸し出す明るい色とやわらかい自由でのびのびした筆運び、彼らによって描かれた女性たちの柔らかな肌、魅力的で官能的な裸体はルネッサンスという人間性の開放、個性の尊重を象徴しているようでありました。さすが美術愛好会の面々出席者の半数以上の方がもうベネツィアを訪れておりました。
(野口昇一 記)

次回の予定
 3月31日(金)11:00 東京国立近代美術館
 茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術
 利休の愛した美


春日大社展(1月24日)報告

 正月気分の美術同好会。参加者は8人。初詣替わり選んだのが、東京国立博物館で開催中(3月12日まで)春日大社特別展。「千年の至宝」の副題にたがわず、王朝文化の雅のアートを堪能した。

 何でこんなに鹿ばかり?全5章で構成される同美術展。第1章は「神鹿の杜」と題されていた。「春日鹿曼陀羅」、「春日神鹿御正体」、「鹿図屏風」など、どこもかしこも鹿のデザインで満杯。 その理由は、奈良時代の初めに創建された春日大社の主祭神・タケミカヅチノミコトが、常陸国から鹿に乗って三笠山の山頂に降臨したからだ。
 このタケミカヅチノミコトの正体は関東一円に勢力を張る鹿島神宮の祭神。漢字を当てれば「武甕槌命」。古事記をひもとくと、イザナギの命(みこと)が火の神のカグツチの首を斬り落とした時の流血から生まれた剣の神様と云う。天孫降臨の際には、地上の王であったオオクニヌシの命を威嚇して、国譲りを承諾させた第一の功労者だ。
 そんな強力パワーの軍神なのに、荒ぶる関東から奈良の都に渡って来た時には、白い鹿にまたがって優雅な詩など朗詠し、音曲と共に静々と登場したらしい。その春日神の雅の精神が伝承され続け、所蔵美術品の隅々に行き渡っている。本来はおそろしい霊力の軍神をも、優美に描かないと気が済まない大和美術。その伝統様式は「柔和」と「典雅」によって、世の混沌を昇華しようという平安的価値観のあらわれとも言えようか。
 中臣氏から藤原氏へ。王朝の政治を支配した一族によって手厚く庇護された春日大社は、美術の世界では「平安の正倉院」(第2章)と呼ばれる。鎌倉、室町、安土桃山、江戸の各時代を通じ、稀代のアーティストを総動員して描かせた仏画や屏風、厨子や絵馬だけでなく、武家から奉納された鎧や刀などの戦闘用具に至るまで、今回展示された250余点を見る者たちは、「美の平安」の継承をしっかり確認することが出来る。
 ところで、春日大社で有名なのは2月の節分の「春日万灯籠」。俳句歳時記を飾る名高いイベントでもあり、堂々約3千体の石灯篭に灯が入って春を招く。しかし、今回特別展には石灯籠が一点も出品されていなかった。果たしてそのわけは?(滑志田隆 記)


日本の伝統芸能展観覧記

冬晴れの師走6日、私たちは日本橋室町にある三井記念美術館にでかけました。
今回の催しは「特別展 国立劇場開場50周年記念」と銘打った『日本の伝統芸能展』の見学です。因みに国立劇場は昭和41年(1966年)に日本の伝統芸能の保存、振興のために開場しています。

展示会場では日本の誇る伝統芸能を「雅楽」、「能楽」、「歌舞伎」、「文楽」、「演芸」、「琉球芸能・民俗芸能」の6つに分類してそれぞれの美と魅力を紹介しています。
芸能の本義は「実演」にありますが今回はそれに付随する仮面、楽器、衣裳、美術工芸品が系統立てて展示されており、それらのひとつひとつが伝統芸能の奥の深さを私たちに教えてくれます。改めて日本が世界に誇れる伝統芸能の存在のすごさを実感した一日でした。当日の出席者は大村、金子、栗林、小嶋、塩原、野口、浜野、煖エの8名でした。
(高橋 ヘ門記)

次回の予定
 29年1月24日(火)11:00 東京国立博物館 春日大社 「千年の至宝」展


晩秋の鎌倉を歩く――美術愛好会(11月4日)報告

鎌倉幕府の公式記録・吾妻鏡(全五一巻)はまことに読みづらい。頼朝挙兵から一二八七年の宗尊親王の帰京まで。日記体で編述されてはいるが、独特の変体漢文に大いに手こずる。太宰治はよくも一部を読解して『右大臣実朝』をまとめ上げたものだ。
そんなことを考えながら、国指定史跡「名越の切通し」を登る。尾根を切り割って造られた鎌倉土木の粋。吾妻鏡には「名越坂」として登場する。切通道が史料にあらわれる最初の例だ。
その東南端にある「まんだら堂やぐら群」が私たちの目的地。一三世紀から一六世紀、急峻な崖をくり抜いて約二b四方の横穴が築かれた。その数百五十。中に仏塔が置かれ、その一つ一つが空・風・火・水・地をあらわす五輪の様式を取る。苔むした簡素なやぐら。火葬者の名を記すことのない小さな塔の群れ。私たちは、そこに結晶する鎌倉庶民の信仰心を見出し、ため息をついた。
武家政治の始まりの時代の空気を吸った人々の質素で健康な美意識が、このやぐら群となって、現代の私たちの心を揺さぶる。滅びて行くものの高貴と無能と大らかさ。美として鑑賞する私たちは、自らの中の渇望を意識する。
晩秋の露に濡れた道を下り、電車で北鎌倉へ。円覚寺に入ると、折から「宝物風入」期間。寺宝が一堂に展示される年に一度の機会だ。牧谿、雪舟、応挙あり。開山無学祖元の直筆も。
私が面白かったのは国宝の洪鐘(おおがね)。十三世紀後半、鋳造するのに何度か失敗して悩み、江の島の弁財天に助けを借りたという伝承がある。高邁な中国禅の思想普及にあたり、在来の日本の神様を巻き込むあたり、鎌倉政権と禅僧たちもなかなか知恵を絞ったものだ。
ついでに塔頭の帰源院の庭で夏目漱石の「白き桔梗」の句碑も見た。ランチはトルコ料理店で。参加者八人。浜野さんご案内ありがとうございました。(滑志田 隆文)


切通し抜けて風聞く吾亦紅  小嶋 弘

次回の予定
 12月6日(火)日本の伝統芸能展 三井記念美術館 11:00


藤田 嗣治展  府中市美術館

よく、「西東京市に美術館があればいいのにね。」と会員の間で話が出る。今回の府中市美術館はアクセスが悪く、施設にも正直、期待していなかった。ところが、美術館は広々と天井も高く、特別展室以外に常設展室、市民ギャラリー、地元の画家が公開制作するアートスタジオなどとても充実しており、驚いた。ここまでいかなくても西東京市にアートで憩える場所があればと改めて思わせる羨ましい施設であった。

展覧会も「フジタのすべて…」とのキャッチコピーの通り藤田の人生を時系列的に網羅し、藤田の芸術との格闘と劇的な私生活との絡み合いが心に響く良質の展示であった。 帰りはこの美術館がある広大な府中の森公園を一周した後、近くの標高80mの浅間山に登り、少し散歩して夕方に家に着いた。解散後の自由さもこの会の魅力の一つだ。会員外でお読みいただけた方、ぜひ一度お試し参加を! 今回の参加者は7名。(浜野伸二 記)

次回のご案内
次回は秋の鎌倉まで足を伸ばし、円覚寺の期間限定公開参観などを楽しみます。

 日時 11月3日(木)JR鎌倉駅バスのりば3番ご集合
 場所 「まんだら堂やぐら群」、「円覚寺宝物風入・舎利殿(国宝)」、東慶寺など。
 詳細は小嶋まで(携帯 070−6645−5448)


「古代ギリシャ展」観覧記

台風一過。日差しは強いが、上野公園を吹き抜ける風は秋だ。9月6日、東博平成館の特別展「古代ギリシャ」。ポスターには時空を超えた旅≠フサブタイトルが付いていた。

ギリシャの美術といえば、均整の取れた人体表現、人間性の理想を追及する彫刻群を思いつく。だが、そんな一般常識はギリシャ美術の十分の一にしか触れていない。同展は神々と対話するギリシャ美術の源流を、6千年前まで遡って私たちに提示しようとする。
起源はエーゲ海の小さな島々。豊饒な海と大地への賛歌は、石を削り磨いた女性像から始まった。赤く彩色された鉢、銅剣、石製のペンダントとネックレス・・・。紀元前30―10世紀のミノス文明の動植物表現の中に、シンメトリーではない様式美が確立された。いまだに解読されない文字列。続々と南下して来たギリシア語族の人々は、先行文明を破壊しながら継承し、神と人間との永遠の交流を学び取ったに違いない。
八章に分かれた展示区分。幾何学文様の時代を経てクラシック、古代オリンピック、ヘレニズム文化へ。紀元前500年頃の男性頭部の彫刻がひときわ目を引いた。ゼウスかもしれないし、ディオニソスかもしれないという解説だ。この大らかさこそ、ギリシャ文化そのもの。地上の秩序も天界の美も、すべては神々の混沌から生まれ出た。まさに神話は美の中に生きている。参加者8人。 (滑志田隆 文)

次回のご案内
10月11日(火)藤田 嗣治展 府中市美術館 11:00


大妖怪展観覧記

処暑にあたる8月23日、「土偶から妖怪ウォッチまで」と銘打っての「大妖怪展」、参加者全員興味津々で両国の江戸東京博物館に向かいました。
妖怪は日本人が古くから抱いてきた異界への恐れ、不安感、又身近なものを慈しむ心が造形化されたもので「百鬼夜行絵巻(ひゃっきやぎょうえまき)」などに描かれた妖怪達の姿は一見不気味乍ら実に愛らしさに溢れています。
今回の妖怪展はともすれば民族学に偏りがちだった従来の妖怪展とは一線を画した美術史学からみたもので一級品の美術品も陳列され、まことに見応えのあるものでした。
入場者もいつもの展覧会とは異なり、外国人そして子供の数が多く見られ、妖怪がいかに多くの人に支持されているかを物語っていました。

観覧後みんなで隣接する国技館に程近い「ちゃんこ霧島」で昼食。食事を終えて店を出ようとしたらなんと元大関霧島その人とバッタリのハプニング、楽しい思い出となりました。

(高橋 ヘ門記  小嶋 弘撮影)

次回予定
9月6日(火)特別展、古代ギリシャ 東京国立博物館 11:00


「メアリー・カサット展」観覧記

関東の梅雨は本当に明けたのだろうか。横浜港に滞留した鬱とおしい湿った空気が、私たちの頭の上に運ばれて来る。7月25日、みなとみらい三丁目の横浜美術館。安定しない季節の不快感。しかし、それを一掃してくれるようなメアリー・カサット展だった。

ポスターには「あふれる愛とエレガンス」というキャッチコピーが躍る。そんな気取った修辞よりも、まるで毒気のない表現と自己主張の没却が、画家の持って生まれた特質であろう。米国の裕福な家庭に生まれたカサットは、21歳の時にパリに渡り、エドガー・ドガに師事した。その技術的な修練が並々ならぬものであったことは、版画の各種技法の試みから想像できる。しかし、この画家は技を売らずに、天分の原型で勝負した。
油彩「浜辺で遊ぶ子供たち」(1884年)、同「夏の日」(1894年)。その抑制された色調、悔いることのない未完成さ、光の中に遊ぶ透明感が、私たちの腐った頭脳に一陣の涼風を送り込む。圧巻は縦横無尽の色使いともいうべきパステル画の連作だろう。日本趣味の所蔵品なども合わせ計100点の展示。楽しませていただきました。カサットさん、ありがとう。参加者九人。ランチは観光客料金の中華街で。                (滑志田隆記、小嶋弘撮影)

次回のご案内
8月23日(火)「大妖怪展」 江戸東京博物館 11:00


「北大路魯山人の美 和食の天才展」観覧記

6月24日(金)梅雨の合間、〈和食〉のユネスコ無形文化遺産登録を記念した「北大路魯山人の美 和食の天才展」(三井記念美術館)へ。参加者9名。

彼(1883〜1959年)は、書家、篆刻家、画家、陶芸家、漆芸家、料理家、美食家として、その作品は厖大且つ多様に亘っており、単に天才芸術家というより“怪物”と称するのが相応しく思える。陶磁器、書、絵画を中心にした紹介の中で、特に「器」のきめ細かな、自然を表現した造形美に驚かされる。
一時間余の鑑賞で、“怪物”の全容を知るすべもなかったが、「料理」と「器」を芸術の域に高めることを理想とした彼の革新的なエネルギーの一端を、肌で感じることができたような気がした。
彼が設立した会員制「美食倶楽部」、料亭「星岡茶寮」(共同設立)は、もてなしの精神と和食の魅力をあまねく紹介した。曰く「器は料理の着物」である。
「墨之栄」にて昼食時、皆の目線が一斉に器に(?)・・・
(古賀良郎記 
滑志田隆撮影

次回のご案内
7月25日(月) メアリー・カサット展 横浜美術館 11:00


カラヴァッジョ展を観て

前日に当会場の国立西洋美術館はユネスコから勧告を受け7月には正式に世界遺産登録が決まる見通しになったこともあり、TVの混雑を悠に越える観客長蛇の列であった。我々は幸いにも浜野氏のご厚意で、即入館することが出来た。有難いことである。小生も絵画鑑賞は望むところで、退職後には世界の著明な美術館は大体覗いたつもりであるが、不肖にしてカラヴァッジョは名前すら知らなかった。

そして解説書等を見て驚いた。気性は荒くて、喧嘩っ早く、人を殺めたこともあったとか。しかし絵画は素晴らしく、人間の生活を画いた画像としては最も生き生きと画かれているように思う。ルーベンスやレンブラント等バロック美術開花の原動力となったのも頷ける。多分性格は我が国の江戸っ子気質(但し殺人は除く)に相当するのではと、一人ほくそ笑んでいる昨今である。(小滝條路記)

次回の予定  北大路 魯山人の美 
6月24日(金)11:00 三井記念美術館(東京都中央区)


黒田清輝展をみて

19世紀末、モネ、ドガ、ルノアール等の印象派、ゴッホ、セザンヌ等の後期印象派全盛の時代、黒田はフランスへ留学し大いに刺激を受け、日本の洋画に新風を吹き込みました。
本展には黒田の作品と同時に影響を与えたミレー、師コラン、モネ、シャバンヌ等の作品、黒田の指導を受けた青木繁、藤島武二、和田英作、岡田三郎助等の作品も同時に見ることができました。約240点もの厖大な展示でした。
日本の洋画界のアカデミズムの本流であり、国策としての文展を牽引した黒田にとって反文展としての新しい流れ、在野団体の興隆はどう映ったのでしょうか。

美術愛好会の4月例会は26日、11名参加。幹事の皆さんにはお世話になりました。   (茂又好文記)

尚、同日に鑑賞予定であった若冲展(東京都美術館)は待ち時間2時間ということで自由鑑賞となりました。

5月例会のご案内
 5月18日(水)  カラヴァッジョ展  国立西洋美術館  11時集合


「大原美術館展」観覧記

まだ、肌寒い花冷えの3月25日、美術愛好会は六本木の国立新美術館で開催中の大原美術館展へ。
実業家大原孫三郎の優れたコレクションは日本の近代美術・絵画に大きな影響を与え、多くの
美術愛好家の称賛を受けてきました。その珠玉の名品の数々を美術愛好会のメンバーは鑑賞しました。

また、同美術館で開催中の白日会公募展を同会会員である茂又氏の出展作品を前に、茂又氏の作品を描く苦労、絵画技法、アイディア、出展までの経緯など懇切丁寧な説明を受け、いつもとは一味違う美術鑑賞を堪能、その後中国料理シェフの孫氏経営のレストランで舌鼓みをうちながら会食をしました。 (野口昇一記)


「宮川香山展」観覧記

東京の空にスギの花粉が満ちている。しょぼしょぼする目の中に、強烈な意匠の陶器の群像が飛び込んできた。2月29日、サントリー美術館「没後100年・宮川香山」展。欧米を感嘆させた明治陶芸の名手ーーとの触れ込みだ。

ワタリガニをあしらった大きな壺が入り口に。その鮮やかな色、爪先や小さな目の細部まで行き届いた写実、二匹を折り重ね配置した大胆なデザイン。このような陶器、今まで見たことがない。「高浮彫」と呼ばれる独自技法の猫、熊、蜂、鳥類・・。実用性を没却した奇抜この上ない装飾性は、明治9年の国際万国博覧会などで絶賛されたという。

香山は京都出身。横浜に「眞葛焼」窯を開き、薩摩焼の研究をベースに輸出用陶器を盛んに製造した。のちに栄えある帝室技芸員。今回陳列の約150点は、海外から里帰りしたものばかり。んーむ、このような工芸が日本にあったのか。どこまでも見る者を驚かそうという創意の堆積に脱帽。抗アレルギー剤の眠気も吹き飛びました。でも一寸当てられた気分。

昼食は乃木坂「海華月」。参加7人。ご案内役の浜野さん、お世話になりました。美人のウェイトレスさん、ありがとう。(文:滑志田 隆)


レオナルド・ダ・ヴィンチ展観覧記

冬晴れの1月22日、大相撲初場所に沸く両国国技館に隣接する江戸東京博物館で開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ‐天才の挑戦」展に出かけました。
日本初公開の「糸巻きの聖母」や直筆ノート等が展示され、それらの資料からこの稀有な才能を持った一人の男が「見えない世界」(Beyond the visible)に果敢にチャレンジした足跡を垣間見る事ができました。

観覧後出席者全員で記念写真に収まり、ランチは両国ももんじゃにて名物しし鍋を賞味しながら懇談しました。
当日の出席者は石井(唯)、大村、金子(正)、河村、栗林、小嶋、小瀧、塩原、野口、浜野(伸)、茂又、高橋(ヘ)の12名でした。
尚、今後の予定は下記の通りです。お問い合わせは小嶋まで、携帯 070-6645-5448。

 2月29日(月)宮川香山展  サントリー美術館
 3月25日(金)大原美術館展  国立新美術館    (高橋(ヘ)記)


「始皇帝と大兵馬俑」展見学

12月16日、本年7回目の見学会に行って来ました。題して「始皇帝と大兵馬俑」展、国立博物館の特別展です。天候に恵まれ上野の森は20℃近くのポカポカ陽気。
「最初の皇帝」を名乗り、中国大陸に統一王朝を打ち立てた秦の始皇帝。陵墓の近くに埋められた地下軍団「兵馬俑」は20世紀最大の考古学的大発見の一つです。絶対権力者だからこそ実現できた「永遠」を守るための地下世界の軍団やほかの作品の迫力に圧倒されました。
見学後は作品クイズで頭の体操、そしておいしいワインの昼食、あっという間の1日でした。

次回は28年1月22日(金)11時より江戸東京博物館の「レオナルド・ダ・ヴィンチ」展です。詳しくは携帯 070-6645-5448(小嶋)までお問い合わせください。
                (文・小嶋弘、写真・浜野伸二)


アルフレッド・シスレー展鑑賞会

美術愛好会では去る9月30日(水)に練馬区立美術館30周年記念の上記展覧会に行って来ました。

シスレーはイギリス人ですがフランスで大活躍の画家です。今回は貴重な国内コレクション約20点も紹介されました。シスレーによって揺るぎないものとなった印象主義的風景画の典型は日本の画家にも影響を与えています。             (写真は浜野伸二氏撮影)


活動報告

平成26年
・4月1日 「ボッティチェリとルネサンス展」 渋谷・ Bunkamuraザ・ミュージアム
・5月28日(木)「大英博物館展」上野・東京都美術館
・7月17日(金)「クレオパトラとエジプトの王妃展」上野・東京国立博物館
・9月30日(水)「アルフレッド・シスレー展」練馬区立美術館
・11月19日(木)「首都圏外郭放水路」春日部市 
・12月16日(水)「始皇帝と大兵馬俑展」上野・東京国立博物館

平成27年
・1月22日(金)「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」両国・東京都江戸東京博物館
・2月29日(月)「宮川香山展」六本木・サントリー美術館
・次回は3月25日(金)「大原美術館展」六本木・国立新美術館です(11時ご集合)。
詳しくは携帯 070-6645-5448(小嶋)までお問い合わせください。


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