西 東 京 稲 門 会

美 術 愛 好 会

毎月1回、東京近辺の人気美術展巡りをしています。
毎回その美術展に関係したクイズもあり、勉強しながら美術を楽しんでいます。クイズの回答合わせや次回の展覧会の候補を決めながらのランチも楽しみです。美術展の内容は毎回稲門会のHPで紹介をしています。
美術に興味をお持ちの方は是非ご連絡ください。お待ちしております。

ご入会希望の方は会員専用HOMEの[同好会資料]参照でご連絡下さい


「エゴン・シーレ展」〜ウィーンが生んだ若き天才〜
(2023年4月1日 東京都美術館)

平年より10日も早い東京の開花でしたが美術鑑賞当日もまだ十分残り、晴天のもと、上野公園の「さくら通り」は家族連れや特に外国人の観光客で大いに賑わっていました(写真ご参照)。

30年振りに開催された「エゴン・シーレ展」。レオポルド美術館の所蔵品の中の50点、自画像、風景画、女性像を中心に展示し、同時代の表現主義の先駆者たちの作品なども見ることができた。

エゴン・シーレ(1890〜1918)の作品については、画風が似ているゴッホ、クリムトやムンクほど馴染みがなかったが、19世紀末ウィーンを牽引した夭折の天才の作品、波乱の人生に触れることができ、かってないほどの衝撃と感動を受けた。

最年少の16歳でウィーン美術アカデミーに合格し、グスタフ・クリムト(1862〜1918)と出会い傾倒する。逸話が残る。「僕に才能がありますか?」、「あるどころか、あり過ぎる」
 
アカデミーから脱したウィーン分離派で、アイデンティティーとは何か、孤独や葛藤をすべてさらけ出して、新しい芸術を追求し見る者を共鳴させる。

ゴッホの芸術観から多大の影響を受けたこと、ジャポニスムの影響が表れていることも非常に興味深い

1918年、スペイン風邪によりシーレ夫妻も感染。妻が死去した3日目に彼もまた死去。

同年オーストリア・ハンガリー帝国が崩壊し、ウィーンの歴史が終焉する。
  
参加者 緒方夫妻 金子 小嶋 高橋(隆門)野口(昇一)古賀(記)7名

◇次回開催 5月13日(土)「どうする家康」(三井記念美術館)

東福寺展

38日{水}暖か 東京国立博物館 東福寺特別展を見る。前回のユウミンミュージアムとは趣を変えて、禅文化の展示。私は東福寺へは行ったことがない。智積院には一泊したり近くの泉涌寺へは参詣しましたが。臨済宗大本山京都五山の第四の大伽藍である。

臨済禅は将軍、朝廷、大名の保護で広まった。釈迦如来が本尊で円爾が開山1236年。展示は208点、国宝7点、大半が重要文化財。

平安時代の物も有り殆んどは鎌倉室町時代の書、画、袈裟、布帛、彫刻、仏具などなど。絵画の圧巻は絵仏師明兆の五百羅漢図で、45巻の大修復を終えて期間中分けて展示される。赤青黄緑金色と鮮明な色彩、釈迦の高弟だからみんな爺さん、おじさんの顔。でもみな眼力は鋭い。

書は難しく私には殆んど読めない、在学中文学部の教室へ這入って、福井康順先生の講義でも1回聴いておけば良かった。大仏も有ったそうで展示は巨大な左手のみ、2メートル以上、500kgあるかな。方丈の書堂々、伽藍図繊細。三門雄大。14世紀中国と南宋時代、五山制度や禅僧の交流で宗教界以外にも幅広く社会文化に影響を受けた。私も米寿近くそろそろ極楽行きの道を探るべく、なにかしないと

参加 緒方2人 小嶋 高橋 野口 水野2人 金子  いつもお世話の浜野さんは所用で今回は欠席。    


稲門美術愛好会2023年第2回(23日)

50TH ANNIVERSARY EXHIBITION

YUMING MUSEUM(202323)

節分の日の23日、曇天の肌寒い日ではありましたが、勇んで六本木ヒルズ、東京シティビュー(森タワー52)へまっしぐら。お目当ては「YUMING MUSEUM」です。

YUMING(ユーミン)とは言わずと知れた日本を代表するシンガーソングライターの1人、松任谷由実

のこと。「え、美術愛好会がユーミンを取り上げるとはこれ如何に?」ですが、実際に行けばすぐに分かります。

会場に入ると吹き抜けのギャラリーには彼女が作ってきた曲の歌詞、譜面、メモ等が所狭しと並べられており、そしてその奥には秘蔵写真、歴代レコード、アルバムジャケット等々、そしてその中央に愛用のグランドピアノがでんと据えられています。これが「YUMING MUSEUM」です。

そうです。これは2022年デビュー50周年の節目を迎えたYUMING(ユーミン)こと松任谷由実についてこれまで公開されることのなかった彼女のコレクション、歌詞、譜面等の資料、映像、コンサート衣装を最大規模の展示で紹介したもので、専ら歌でつながっていたユーミンファンにとって素顔のユーミンに触れる絶好の機会ともいうべきもので、まさに待ち望んでいた企画でした。

ユーミンの歌詞、譜面の原稿を見ましたが、天才ユーミンの事だから泉のごとく次々に湧き出る歌詞、曲を書き留めていけば名曲は自ずと誕生するのだろうと思いきや、何度も何度も筆を加えている原稿を目の当たりにして、その真摯な姿勢に心打たれました。一方で歌詞は直筆で、やや丸みを帯びた可愛い字体で記され、、ユーミンの人柄が出ていて好感が持てました。(高橋 髢)

建物の前に立っている男性たち

中程度の精度で自動的に生成された説明

(「ユーミン万歳! 2022年アルバムジャケット撮影用衣装」をバックに記念撮影)


稲門美術愛好会2023年第1回(15日)

ピカソとその時代――国立西洋美術館

 おだやかな新春の昼である。ドイツの国立ベルクグリューン美術館から招聘された20世紀前半アーティストを中心とする絵画・彫刻を見に行った。ベルリン所在の同美術館の改修工事に合わせて企画され、ピカソ、クレー、マティス、ジャコメッティ、ブラックなどの97作品が来日した。うち76点が日本初公開。国内所蔵の11点を加え合計108点で構成されている。「戦争の世紀」の意味を美の系譜から考えさせ、なかなかの含蓄であった。(報告者・滑志田驕j

 画像:黄色のセーター   パンフレット

・形象の破壊と再構築の足跡を見た

 題名の通りに展示の約半数がピカソの作品で占められている。そのうち「35点が日本初公開」というのが売り文句であり、会場には新幹線を乗り継いてきたという女学生もいた。「平面の中に多くの立体が存在し、人間の多くの感情を同時に表現していることが、まさに人間的なアート」と彼女は言った。

大作「ゲルニカ」で不朽の名を遺すパブロ・ピカソ(1881-1973)はスペインに生まれ、フランス画壇で活躍した。ジョルジュ・ブラックとともにキュビスムの創始者として知られ、二度の大戦と母国動乱のはざまで人間的自由を追い求める挑戦的な絵画を描き続けた。その栄光の業績については多言を要しない。が、92歳まで実験的なフォルム構成の実験に工夫を凝らし続けた熱情が特記される。生涯におよそ13500点の油絵と素描、10万点の版画、34000点の挿絵、300点の彫刻と陶器を制作した。

この展覧会はもちろん、ピカソの長大な画業の各期を見せる配列になっている。何人もの恋人の変遷も画面に記録されて興味深い。が、鑑賞のポイントは青の時代から薔薇色の時代を経てキュビズムを深化させていく過程だろう。人間世界への不安感の表出を如実に物語る「座るアルルカン」(1905年)や「一房のブドウのある静物」(1914年)、「水差しを持ったイタリア女」(1919年)、「黄色のセーター」(1939年)など。クレー。マティス、ジャコメッティの諸作品にも「戦争の世紀」を生きる人間の苦闘が横たわっていた。それがこのコレクションの特色であると言っていいだろう。

 形象の破壊と再構築――。それは運動としての美術活動のテーゼであったが、創作者にとっても収集者にとっても、押し寄せる不安とたたかう切実な自我の問題であり、また困難な時代と苦闘する日々の記録であったことを知る。

・「戦争の世紀」を生きた画商の執念

同館はベルリン美術館群(計15館で構成)の一翼を担う現代アートの殿堂である、解説される。“ベルクグリューン”の音だけ聞けば、「緑の山」あるいは「城」すら連想するが、意外にもコレクターであった画商の人名なのであった。不明にしてこの人物を知らなかったので調べてみると、破壊と暴力の時代をたくましく生き抜き、自分と同時代のアーティストの作品収集に拘り続けた男であることが分かった。

ハインツ・ベルクグリューン(19142007)はベルリン生まれのユダヤ人。1936年、ナチスの抑圧を逃れてアメリカに渡り、サンフランシスコ美術館に勤務。第二次世界大戦後にパリで画廊を開いた。ベルリンのシャルロッテンブルク宮殿に面した建物の中で公開されていたコレクションを2000年にドイツ政府とベルリン市が資金を出してナショナルギャラリーに収蔵した。これは同国の美術館史上最も高額な購入だったらしい。2004年、彼の90歳を記念し美術館が設置された。2007年没。

迫害と闘ったユダヤ人の男の執念によって、この稀有なコレクションが出来上がったのである。そこには破壊と抑圧と解放の20世紀が記録されていると見なければならない。それを平和ボケした日本で、不自由なく老年の日常を生きる私たちが口を開けて眺めている。その穏やかな光景を素直に喜ばなければないだろう。

だが、ピカソもクレーもジャコメッティテイも「何か違うのじゃないか」と語りかけてくる。古くて新しい、そしてどこまでも重苦しい主題をあらためて担わされたような2023年新春の美術鑑賞であった。


『芸術は爆発だ!』

展覧会 岡本太郎   2022(令和4)126日(火)   於:東京都美術館

 美術愛好会、久々振りの始動。大人気のこの展覧会、混雑を避けるため、日時指定予約制。メンバー9名、16時集合。

最大規模の回顧展と銘打っているだけに、びっくりするほど多数の作品が集められ、かつ第1章から第6章と創作の足跡を順に辿ることができる。しかし、第1章が始まる前、最初に入ったフロアには絵画、彫刻、オブジェなど各章の代表作が展示されており、もうこれだけで圧倒され引き寄せられる。大阪万博の「太陽の塔」はあまりにも有名だが、知っているようで知らないことも多く、改めてより深く知ることができたことに感謝。

「なんだ、これは!」と思わせる独特な感覚と不思議な魅力、これが自由!岡本太郎!

(おがた記)


特別展 出雲と大和 日本書紀成立1300年
「日本のはじまり、ここにあり」
2020(令和2)年2月21日(金)  於:東京国立博物館・平成館

 暖かい陽射しが心地良い。入口受付付近にはいつもなら大勢の人たち(中高年!)でごった返しているのに、今回はビックリするほど少ない。これも新型コロナウイルス感染症の影響か。(次の週には感染拡大防止のため一時休館となってしまった)

 今年令和2年(2020)は、わが国最古の歴史書(正史!)『日本書紀』が編纂された養老4年(720)から1300年。日本書紀は、神代から持統天皇(第41代、在位686-697)までを記した歴史書。舎人親王(676〜735)が中心となって編纂、養老4年(720)、元正天皇(第44代、在位680-748)に奏上された。(ちなみに、持統天皇、元正天皇はともに女性天皇)日本最古の書物『古事記』(712)とともに様々な研究が続けられている。
 日本書紀によると、日本のはじまりには古代出雲と大和の地が重要な役割を果たしていたとのこと。会場は「1巨大本殿 出雲大社」「2出雲 古代祭紀の源流」「3大和 王権誕生の地」「4仏と政」の4つのテーマ別に、国宝、重要文化財を含む約170件もの作品が展示されており、観る者を圧倒する。紀元前2世紀(弥生時代)から7世紀(古墳時代)にかけての古代出雲と大和に思いを馳せ、じっくり鑑賞していたら、なんと集合時間が近づき「4仏と政」(飛鳥時代、奈良時代)は駆け足の鑑賞となってしまった。(残念!) 
 恒例のクイズは、事前にお知らせいただいていたこともあり、予習のおかげで初の満点!(笑)
(おがた記)


「人、神、自然―ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界―」観覧記


正に冬晴れの新年の1月10日、メンバー8人は特別展「人、神、自然―ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界―」観覧のため上野の東京国立博物館へ。
すると何やら入口付近に行列が出来ており、その列の最後尾には「30分待ち」の看板も見えます。それは特別公開「高御座と御帳台」を観に来た人の列でした。そうです、これは令和元年10月22日、TVで何度も映し出された即位礼正殿の儀に使用された台座で、高御座は天皇陛下、御帳台は皇后陛下が昇られました。我等メンバー有志も急遽その列に加わり、観てきました。台座は勿論の事、装飾のすばらしさにただただうっとりでした。

さて本来の観覧予定であった特別展「人、神、自然―ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界―」も大変興味深いものでした。古代の人々は自分達自身をどう表現したのか、或いは神々の死後の世界、自然界をどう認識したのか、古代美術工芸品からうかがい知ることができます。これらはカタール国王族シェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アール・サーニー殿下収集コレクションのもので、その中から厳選117件が展示されています。今回は1章 人(人の姿形、権威を象徴する品々)、2章 神(神々とのつながり)3章 自然(動物の姿、興味と畏れ)に分けて整理展示されていました。紀元前のものも数多く展示され、その水準の高さに感嘆することしきりでした。
(高橋 髢蜍L)

次回のご案内
 2月21日(金)10:00 東京国立博物館
 特別展 日本書紀成立1300年 出雲と大和 日本のはじまり、ここにあり。

ルノワールとパリに恋した12人の画家たち鑑賞記

 師走、木々にわずかに残る紅葉を目にしながら、美術愛好会一行5名は横浜美術館にオランジェリー美術館コレクション、ルノワールとパリを愛した12人の画家たち展を見ました。

 展覧会では20世紀初頭、パリに外国からも多くの芸術家が集まり、彼らが彼らの異文化や言葉を越えた交流を通して、お互いの主義主張を戦わせながら個性を生かした表現を模索し魂を込めた絵画を鑑賞しました。
 印象派からエコールド・パリと呼ばれる新しい表現の絵画に取り組み探求を重ねた13名の画家たちの絵の数々、素晴らしいとしか言いようがありませんでした。
 また、当時の画商やコレクター達も時代の気風を感覚的にとらえるのか、オランジェリー美術館コレクションのもととなったボール・ギョームをはじめ、アメリカ人バーンズ、イギリス人コートールドなどの時代を先読むようなコレクターや画商が現れたのは奇遇としか言えないようです。今回の展示でもアンリ・ルソーやスーチン、マリー・ローランサンらの画家の絵が展示されていたのは時代を見通す目利きの方々の存在のありがたさを感じました。
 絵画鑑賞の後は世界遺産となった日本の和食の美の一端を味わいながら絵画の話題やクイズに花を咲かせました。  (野口昇一 記)

次回のご案内
 令和2年1月10日(金)10:00
 「MAN GOLD NATURE 特別展 人、神、自然」 東京国立博物館

小嶋 


11月の中旬まばらな紅葉のなか、東京都美術館で開催の「コートールド美術館展」を8名で観覧しました。副題に「魅惑の印象派」とあります。マネ、ルノワール、ドガ、セザンヌ、ゴーガンたちの傑作が集められました。

話題はマネの最晩年の傑作「フォリー=ベルジェールのバー」で美しくも謎めいたバーメイドを主人公に据えた作品でした。私はコートールドのことは知りませんでした。彼は繊維業で財を成し絵画の収集につぎ込んだイギリスの実業者でロンドンのコートールド美術館にはルノワールの「桟敷席」、セザンヌ「カード遊びをする人々」、ゴーガン「テ・レリオア」などがある。個人的にはルノワールの色彩が好きでしたが、今回の展覧会で風景画のセザンヌに関心を持ちました。
本展は、「画家の言葉から読み解く」「時代背景から読み解く」「素材・技法から読み解く」の3章構成で、60点の作品と24点の資料を紹介。それぞれの章には、「収蔵家の眼」というセクションが設けられており、セザンヌ、ルノワール、ゴーガンの作品を集中的に紹介しています。美術画集ではなく、やはり実物を見るのとは大きな違いがあることを感じました。 (斎藤皓一記)

次回のご案内
 12月9日(月) 10:00 横浜美術館
 ルノワールとパリに恋した12人の画家たち


高畑勲展感想記

竹橋の東京国立近代美術館でアニメの巨匠高畑勲展を4名で鑑賞した。

最終日間近(〜10・6)であり、それなりに混んではいたが海外でのアニメ人気のためか外国人の多さが目をひいた。
高畑氏は各作品の監督であり、アニメ作家ではない。東大仏文卒業後当時アニメにも力を入れていた東映に入社。演出家を経て、長編アニメ「太陽の王子ホルスの大冒険」の監督を行う。
会場は高畑の作品別の展示となっており、我々世代にもなじみのある作品、(アルプスの少女ハイジ、母を訪ねて三千里、となりの山田君、火垂るの墓、かぐや姫の物語等)が絵コンテや演出ノートなどと展示されている。
圧倒的な表現は綿密なロケハンや、きめ細かな演出の賜物であったことが確認できる展示で、アニメをもう一度鑑賞したくなったのは、私だけではないと思われる。
なお名パートナーの宮崎駿は、自ら作画も行うが、高畑は専ら演出、監督であった。(水野 聰記)

次回のご案内
11月15日(金)10:00 東京都美術館  魅惑の印象派 コートールド美術館展


「特別展 三国志」(美術愛好会9月例会)

日中文化交流協定締結40周年記念の特別展「三国志」を9月11日(水)午後4時より、東京国立博物館にて鑑賞した(参加者6名)。
閉館まで1時間と、駈け足の鑑賞となったが、展示文物170点の約8割が日本初公開であり、三国志ファンはもとより、三国志ファンならずとも貴重な陶磁、古美術などを堪能できたのではないだろうか。入場者総数は62日間で337,639人とその人気の高さが窺われた。 
展示は、入室早々、ポスターの表紙にもなっている、“神となった”関羽の等身大の像に圧倒される。1800年前、後漢王朝の混迷した三国志の時代の栄枯盛衰を、英傑たちのルーツ(曹操・劉備・孫権)、漢王朝の光と影、魏・蜀・呉の三国鼎立、曹操高陵など解説と出土品で「三国志」の世界を再現している。 
特に、対外交易が盛んだった呉の孫権を支えた海洋ネットワークや2009年河南省安陽市で発見された曹操高陵からの石碑や白磁などが印象的であった。
近年、三国志の研究は、曹操高陵の発掘など空前の活況を呈しているが、これからもあらたな出土品に目が離せない。
幸い全展示品が撮影可能(フラッシュ禁止)だったため、その一部を紹介します。

神となった関羽像(青銅製)       魏王の曹操     
 

漢中襖王の劉備     呉の初代皇帝孫権
 

壺(銅製鍍金)        対外貿易を支えた貨客船  
 

     五層穀倉楼         魏と蜀・呉連合の海上戦はこのようだった?
 

軍船模型              奏琴俑・説唱俑
 

曹操高陵          鼎(支配者の徳を表す)
 

曹操を指す魏武王の石牌(副葬品)

(写真・記 古賀良郎)

■次回のご案内: 高畑勲展 〜日本のアニメーションに遺したもの〜
10月4日(金)10時 (東京国立近代美術館)


松方コレクション展感想記

 神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方幸次郎は第一次世界大戦による造船需要により事業を拡大しながら、一方ロンドンやパリで大量の美術品を買い集めます。モネやゴーガン、ゴッホなどの作品に彫刻や他ジャンルの作品、一括購入した浮世絵8千点(東京国立博物館所蔵)等を加えればその数1万点の規模でした。

 それらの作品は昭和金融恐慌による会社の経営破綻によって内外に散逸した1千点を始め、ロンドンの倉庫に保管中の900点が火災に遭ったり流転の道をたどりますが、パリの美術館に接収されていた375点がフランス政府から寄贈返還され、60年前に松方コレクションの安住の地、国立西洋美術館の誕生となりました。
 彼は趣味や道楽でただ集めるというのではなく、本物を見ずに油彩画を描いている何千人もの日本人の絵描きのために本物を見せてやろうとの思いを熱く語っていたと言われています。彼の人間の大きさ、偉大さに惹き付けられた一日でした。 (小嶋 弘記)

次回のご案内
 日中文化交流協定締結40周年記念 特別展 三国志
 9月11日(水)16:00 東京国立博物館


美術愛好会活動報告「特別展・日本の素朴絵」

「うまい・へた」の物差しは関係なし。どれだけ、人の心をゆるやかにし、寛がせることができるのか。そんな美術作品の史的系譜について考える「日本の素朴絵展」(9月1日まで、三井記念美術館)はユニークこの上ない美術展だった。

 展示は「立体に見る素朴」から始まる。古墳時代の埴輪「猪を抱える猟師」のゆがんだ顔面の表情が私たちを驚かせた。獲物を得た喜びと自慢したい気持ちの高ぶり。それを活写する作者のひがみ根性までが、皮肉たっぷりに描かれている。長岡京出土の墨書人面土器、白布時代の誕生釈迦仏、中世の男神女神像…と、ユーモラスな形の数々が紹介される。
 「あっ、かわいいな」と思わず言ってしまうような小型の動物表現━。石造の獅子(室町時代)や陶製の狛犬(江戸時代)などは、現代の地方自治体が製作に狂奔する「ゆるキャラグッズ」の走りと言えようか。 やがて、仏教思想の影響を受けた地獄絵、六道絵のオンパレードとなる。重厚な信仰心は影を潜め、来世の平安を願う素朴な庶民の心情が表現される。教訓的な説話物語「うらしま」や「竹取」も、人間の実人生の滑稽さが浮き彫りとなる絵巻モノに変身した。
 白樺派の柳宗悦によって再発見され、重要な美術品と共通認識された「大津絵」もこのような伝統の中にある。「鬼の念仏」「為朝」「藤娘」「傘美人」‥柔らかな線と形と淡い着色は現代に息づく先端アートでもある。それは力みを取りのぞいた造形であり、私たちの心にじんわりと浸みこんでくる。榎本其角、与謝蕪村らの手すさびの俳諧の絵、大作で知られる池大雅や尾形光琳らの意外な小品群、円空や木喰の異形の仏像群も忘れがたい。
振り返れば、「ゆるい、かわいい、楽しい美術」は、縄文時代から現代まで脈々と続く日本人の美意識の重要素であった。時には皮肉な観察眼による人物描写となり、時には教養たっぷりな洒脱な文人画となって、人々の気持ちを癒す。そこにはすさんだ生存競争や権威を誇示する力の表現からは程遠く、解放された人間性の表現が充満しているのであった。展示作品約120点。参加者5人。(報告者・滑志田 )


美術愛好会 モロー展感想記

 6月21日(金曜日)新橋パナソニック汐留ミュージアムへ10人で、ギュスターヴ・モロー展へ。サロメと宿命の女達という副題。パリの宝石箱からこぼれ出た幻想世界?!、まあなんとミステリアス!?先に見たターナーの安定感、東寺の安心感とは全く別世界だ。19世紀の現実主義、物質主義的な潮流から抜け出た象徴主義の巨匠が神話や聖書を題材にした夢幻的な絵が多い。
 
 まずモローが愛した女達、30年連れ添った恋人アレクサンドリーヌの顔、普通の穏やかな表情の小品。情愛深い母親のデッサン。
 「出現」とサロメ、未完の代表作出現は裸体に豪奢なヴェールと宝飾品のサロメ。ヨハネの首は血を滴らせながらサロメを凝視。ぎょぎょぎょ!
 モローは男性を誘惑し翻弄し、命さえ奪う宿命の女を描く。彼女たちの妖しく艶やかな姿態に眩惑される。
 ヘラクレスとオンファレ、英雄ヘラクレスが王女オンファレの奴隷になり、愛人にもなった情景。二人とも肉体を誇示する如し。逞しさと妖艶さの合作。
 エウロペの誘惑、王女エウロペが海で裸で遊んでいる場にユピテルが牡牛に変身、さらってしまう場面。まあなんとなんと〜
 一角獣と純潔の乙女、純潔の乙女のみが捕獲出来るという一角獣に女性達がかしずく、背景も良い。美しくたおやかな女性、汚れなき女性を冒しがたい清らかさで表現した。

 会期末近く、混雑で30分ほど入場制限待ち。見終わって令和の東京にもどる。となりのシテイセンタービル42階で勝鬨橋を見下ろしながら昼食。 (金子正男記)

次回の御案内
 特別展 日本の素朴絵 ーゆるい、かわいい、たのしい美術ー
 7月26日(金)16:00 三井記念美術館(日本橋室町)


クリムト展 ウイーンと日本1900

官能美あふれる女性を描かせたら、恐らくナンバーワンと思われる19世紀末ウィーンを代表するダスタフ・クリムト展を観ました。

没後100年を記念は「ウィーンと日本1900」と題し、初期の自然主義的な作品から、分離派結成後「黄金様式」の代表作、甘美な女性像や風景画まで25点以上の油彩画を展示として、壁画の精巧な複製の再現展示し、同時代ウィーンで活動した画家たちの作品並びに影響を受けた日本美術品などでした。
クリムトは1862年生まれ55歳で死去。絵の特徴はウィーンの貴婦人を描いた肖像画、金箔を使ったあでやかな色彩美で描く女性像はエロチズムが感じられる。陰影のついた立体的な顔の描き方に対して、それ以外の部分が平面に処理されているのに特徴がある。ある作品では男女と子供3世代を「生命の円環」と表現し、クリムトはこの世に生まれ、青春時代を過ごし、やがて老いて死を迎える・・・人間の誰でもが辿る運命(生命)を主題に描いている。
今回は夕方の時間帯で比較的すいていて落ち着いて鑑賞できました。作品はベートーベンなどとの音楽にもかかわりがあり、さすが音楽の都での活動は絵画にも影響を及ぼしていることが認識されました。
私が初めてクリムトの観たのはベルベデーレ絵画館で「接吻」でした。金箔に包まれた裸体の大きな絵でかなり驚きました。しかし、美術史美術館などで多くの西洋画を見ていくうちに慣れました。
今回の作品制作舞台はウィーンです。私ことになりますが、子供がウィーンに駐在の時に時々行き音楽と絵画に触れました。その時の記録です。
http://ryuho.world.coocan.jp/midkaze/ui-nalubum/uli-n.htm
  http://ryuho.world.coocan.jp/midkaze/gazo/sum_2.html
  このサイトは次のサイトの一部分です。
  http://ryuho.world.coocan.jp/geijyutu/  
私は入会させていただいて1年半です。僭越ながら自己紹介も兼ねさせていただきました。
今回は8名の参加でした。                      (斎藤皓一 記)

次回のご案内
 ギュスターヴ・モロー展 6月21日(金)11:00 パナソニック 汐留ミュージアム


蘇る真言密教の「大」と「空」〜美術愛好会4月定例会・東京国立博物館訪問
報告者・滑志田隆

 呑み込んだ石の幾つかが体内でゴロゴロ鳴るような感覚ー。その音が歴史の潮に弄ばれる小さな自分を意識させる。はかない命だからこそ、人間の祈りは切実なのだ。その堆積の「大」とそれを抱擁する「空」の迫力。東京国立博物館平成館で開催中の「特別展・国宝東寺ー空海と仏像曼荼羅」(3月26日-6月2日)は脳髄にずしーんと響く重量感ある展覧会であった。
 
 西暦894年の平安遷都とともに、都城の正門・羅生門の東西に国家鎮護の二つの大寺が建立された。片方の西寺は廃絶したが、東寺は存続し教王護国寺とも呼ばれて幾多の戦火をくぐり抜けた。そして、荘厳なる儀式と秘宝を今日まで伝える。
その本尊は薬師如来。建立直後の時期に天皇の命により寺の維持管理を任されたのが、唐より帰国したばかりの空海(774-835年)だった。空海はこの寺を真言密教の一大拠点として育成し、薬師如来の功徳を世の隅々に行き渡らせるための「御修法」を伝授した。
今回展示の仏像、絵画、仏具、書状など110群は、いずれも真言密教の華麗にして混沌、時に威圧的な教理を日本国土に浸透させる意図のもとに伝承されてきた。最も重要な宝物は空海が唐より伝来させた釈迦の遺骨「舎利」だ。膨大な数にのぼる密教法具も大画面の曼荼羅も、この小さな金銅製「舎利塔」の周辺に鎮座するのが常だった。その一部は天皇に献上され国家鎮護の仏教思想の拠り所となった。
大日如来を中心とする両界曼荼羅図、不動明王以下の五大尊像、毘沙門天以下の十二天象…。平安時代の膨大な祈りの堆積が、天空に渦巻く呪文とともに現代の世によみがえる。誰もがその迫力にひれ伏そうとする時、陳列物の中に国風化された美意識を発見し、ようやく安堵したような気分になった。
空海筆の「風信帖」、9世紀の女神坐像、10世紀の武内宿禰坐像(いずれも国宝)。そこには力強さではなく柔和な曲線美によって文化の権威を表現する大和心の感性が横溢している。その優美さを眼の奥に抱きながら博物館の門を出る。上野の山の満開の桜の中を歩き、ビールをしこたま飲んだ。計十人参加。

次回は5月8日(水)16:30  東京都美術館
クリムト展 ウイーンと日本


奇想の系譜展(江戸絵画ミラクルワールド)

美術愛好会では、通常入場者で混雑する時間を避けるべく、平日の日中に観覧していますが、今回は趣向を変え、開室時間が夜まで延長される金曜日(今回は3月22日)の夕方、上野の都美術館で勤め帰りの方達と共に観覧を楽しんできました。

今回は「奇想の系譜展(江戸絵画ミラクルワールド)」でしたが、これは美術史家辻惟雄が1970年に著した「奇想の系譜」に準拠したものです。この本で紹介されたのはそれまでに書籍や展覧会では紹介されたことのない旧来の因習の殻を打ち破り、意表をつく自由で斬新な発想により観るものを非日常的世界に誘うアヴァンギャルドの作品の数々でした。
時代は下って、江戸時代絵画史の傍流とされてきた画家達がその現代に通じる革新性によって、今や熱狂的に迎えられています。その代表が伊藤若冲です。今回は「幻想の博物誌 伊藤若冲」以下、「執念のドラマ 岩佐又兵衛」、「狩野派きっての知性派 狩野山雪」、「醒めたグロテスク 曽我蕭白」、「京のエンターテイナー 長沢芦雪」、「幕末浮世絵七変化 歌川国芳」の6名に「奇想の起爆剤 白隠慧鶴」、「江戸琳派の鬼才 鈴木其一」が加えられています。
なんという豪華な布陣でしょう。各々個性をいかんなく発揮し、観る者をぐいぐい彼らの世界に引き込みます。美術を愛する者にとってまさに至福のひとときでした。(高橋 髢蜍L)

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   特別展 「 国宝 東寺」   空海と仏像曼荼羅
   4月5日(金)10:30 東京国立博物館


新・北斎展

約480件という膨大な作品によって通覧する展覧会「新・北斎展」を東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで鑑賞した。
「新・北斎展」と冠した本展は、2000件を超える北斎と北斎派のコレクションを所有していた北斎研究の大家・永田生慈(1951-2018)が10年以上温めてきたものです。

北斎の絵師人生を作風の変遷と画号で6期に分けて展示されていた。いうなれば北斎の自分史的な展示であった。20歳代の春朗期、肉筆画や挿絵の新たな分野に取り組んだ宗理期(30歳代)、挿絵に傾注した葛飾北斎期(50歳代)、画手本(イラスト集)を手掛けた戴斗期、錦絵の揃物を多く制作した為一期、そして晩年に自由な発想と表現を発揮した画狂老人卍期と分類されわかり易く展示されていた。北斎は江戸時代後期の大塩平八郎の乱・水野忠邦天保の改革頃にこれだけの画業をこなした。
天保13年(1842年)83歳の頃初めて高井鴻山の招きで信州小布施を訪れている。私は以前その地で天井画「鳳凰図」を観たことがある。迫力のある作品だった。
平均寿命40歳代といわれる時代に80歳を越えても精力的な「スーパー高齢者」の生きざまに見習うことが多々あった収穫の多い北斎展であった。小雪もちらつく寒い日であったがレストランで会食をとり暖をとった。 (斎藤皓一 記)

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3月22日(金)17:30 東京都美術館
奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド


皇室ゆかりの美術 ―宮殿を彩った日本画―

山種美術館のことを知ったのは早稲田に通っていた頃である。
カネは無いが時間はたっぷりあった。出身地の熊本ではほとんど見る機会に恵まれない映画や美術などに惹かれ、いろんな所に出没していた。
展覧会は、面白い企画は当時はデパートで開かれており、印象派やバルビゾン派、ロココ等が流行っていた。
今、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「ロマンティック・ロシア展」のポスターピースになっているクラムスコイの「忘れえぬ女」に出会ったのは日本橋の三越本店だった。
また、パルコもイメージ戦略まっしぐらの頃で、「肖像神話」というキャッチコピーでそのスタイリッシュな画風のとりこになったのはタマラ・ド・レンピッカである。
外国の美術に魅了されている中で、当時は日本美術に関する興味は今一つだったが、例外があった。たまたま見た「日曜美術館」で紹介されていた速水御舟の「炎舞」に魅入られ、また安宅コレクションの一部も見ておきたいと思い、早速、当時山種美術館のあった日本橋兜町に出掛けた。

山種美術館の魅力はこの門外不出の「炎舞」とユニークなコレクション形成にあり、今回の展示でもその一端が紹介されていた。
山崎種二は、1968年に完成した新宮殿を訪れ、飾られた美術品を手掛けた主要画家に同趣向の作品制作を委嘱した。この時完成した作品群が今回の展示のハイライトになっており、種二の理想や画家の葛藤が丁寧に紹介されていた。
大美術館で開かれる企画展にも知的な楽しみがあるが、こうした私立美術館による館蔵品中心の企画展には別の愉しみがある。そこでは作品そのものの魅力に加え、収集した人物像に触れることが出来たり、流転を繰り返しさまざまな人の手を経た美術品にまつわるドラマを味わったりすることがよりクローズアップされて伝わってくる。(浜野伸二 記)

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「新・北斎展」 2月15日(金)11:00 森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)


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