西東京稲門会

観劇の会

前代表転居により休会していましたが2017年より再開。昨年5月は前進座公演観劇実施、10月は武蔵野文化会館で行われた前進座公演「柳橋物語」を観劇。本年も2月に稲門出身で前進座女優の有田佳代さんとの交流会実施、5月には国立劇場“人間万事金世中”を観劇予定、秋も計画中。観劇後は飲みながらの交流会も行っています。会の平均年齢高いので若手の参加を期待しています。

ご入会希望の方は会員専用HOMEの[同好会資料]参照でご連絡下さい。

名優・林与一さんの時代劇を愉しむ

前日までの急な冷え込みから一転、小春日和となった11月21日、武蔵野市民文化会館で行われた前進座公演「雪間草(ゆきまそう)―利休の娘お吟―」を総勢12人で鑑賞。今回、当会会員の女優・有田佳代さんは他の公演で地方巡演中のため出演は叶いませんでしたが、時代劇スターとして映画やテレビ、舞台で長年活躍してきた林与一さんが、初めて前進座公演に参加するとあって期待値満タンで出かけました。

舞台の原作は、海音寺潮五郎の『天正女合戦』。戦国時代末期、「唐御陣(からごじん:文禄・慶長の役のこと)」をめぐる豊臣秀吉と茶人・千利休の意見の対立を軸に、ストーリーは利休の娘お吟の運命をも巻き込みながら展開し、最後は利休の切腹という非業の結末へと向かいます。秀吉ドラマには欠かせない妻ねねや母なか、弟の秀長、茶々(のちの淀君)や石田三成も登場。

圧巻だったのは、利休役をつとめた林与一さんのキレのよいせりふ回し、立ち姿やふるまいの上品さ。舞台上を駆け回る姿は、とても御年82歳とは思えない動きです。稽古入りのときからコーヒーや洋楽を絶ち、和の世界に浸るようにしたという芸への執念は、“演劇界のレジェンド”の呼び名にふさわしいと感じました。

カーテンコールでの万雷の拍手でハイ終演と思いきや、この武蔵野公演が今年の千秋楽ということでアフタートークのおまけが。そのまま林与一さんが次々と前進座の出演者を指名、軽妙なおしゃべりで舞台裏を明かし、楽しませてくれました。

そして最後はお決まりのプチ忘年会を兼ねた懇親会へ、会場から歩いて15分ほどの「お野菜ビストロ 志あわせ」に移動。ちなみに、この店のオーナーシェフは料飲稲門会のメンバーで、次々と運ばれる料理に舌鼓を打ちながら歓談しました。

次回は来年5月~6月に池袋・サンシャイン劇場で行われる前進座公演「裏長屋騒動記」(山田洋次脚本)を観る予定です。

S55年文学部卒 松永 忍

世界初「女性だけの三番叟」を堪能

皆さんは「世界で初めて!」のものをご覧になったことがおありでしょうか。5月の「観劇の会」例会では、池袋にある東京建物ブリリアホール(旧豊島公会堂)で前進座の歌舞伎舞踊『雪祭五人三番叟(ゆきまつりごにんさんばそう)』を鑑賞。5人の踊り手を女優が務めるのに加え、物語の語り手である義太夫も女流、笛や鼓などの囃子方(はやしかた)も女性の演奏家、サポート役の後見(こうけん)を含め舞台上にいるのは全員女性という、伝統的な「三番叟」で初となる舞台でした。

三番叟は五穀豊穣を願う祝いの舞だそうで、わが西東京稲門会のメンバーである有田佳代さんも、踊り手のひとりとして今回初挑戦です。剣先烏帽子(けんさきえぼし)が特徴的な三番叟衣装で登場し、小柄ながら踊り出しから力強く舞台を踏み鳴らす姿は躍動感たっぷり。5人がピタリと揃う振り付けにも圧倒されます。途中、有田さんはおかめ役になって軽妙な連れ舞を披露し、再度5人揃っての”笠おどり”を経て、後半の”鈴の段”では雪の降りしきるなか勇壮に舞い踊り、感動的なクライマックスを迎えます。

日本舞踊などふだん見る機会もなく退屈なのではと考えていましたが、あに図らず、変化に富んだダイナミックな展開やさまざまな小道具に目も心も奪われているうち、約30分におよぶ歌舞伎界初、世界初の試みはあっという間に幕となりました。

なお今回、併演されたのは『歌舞伎十八番の内 鳴神(なるかみ)』。朝廷に対する恨みから龍神を滝壺へ封じ込めてしまった鳴神上人のもとへ、絶世の美女・雲の絶間姫(たえまひめ)がやってきます。じつは絶間姫は、上人の法力を破り、雨を降らせるために朝廷が派遣した女性でした。色香で上人を惑わすようすに客席では笑い声が上がり、騙されたと知った上人の暴れ狂う姿は歌舞伎ならではの演出と感じ入った次第です。

終演後多くのメンバーは、池袋駅近くの老舗居酒屋に移動。あとから駆けつけてくれた有田さんをねぎらいつつ、明日以降も続く舞台での奮闘を祈念して乾杯しました。なお、次回の「観劇の会」は11月21日(木)、武蔵野市民文化会館で行われる前進座公演『雪間草(ゆきまそう)~利休の娘お吟~』を観る予定です。

S55年文学部卒 松永 忍

観劇の記『花こぶし 親鸞聖人と恵信尼さま』

今年最初の例会は1月29日、浅草公会堂で上演された前進座公演『花こぶし』の観劇でスタートです。浅草公会堂は、雷門をくぐり仲見世通りから入った伝法院通りにある劇場で、インバウンドでにぎわう人混みをかき分けて総勢9名の参加者が到着。前週までここで「新春浅草歌舞伎」が行われていたせいでしょうか、辺りは初春の残り香が漂っているようでした。
さて今回の芝居は、浄土真宗の開祖である親鸞聖人と、その妻・恵信尼(えしんに)との堅い絆を描いた物語。じつは、長い歴史を持つ前進座には、鑑真の来日を描いた『天平の甍』の上演を機に始まった『親鸞』『日蓮』『法然』『空海』『蓮如』といった“名僧伝”の実績があり、本作品もその一環といえます。
物語は今から800年ほど前のことで、若き日の親鸞と恵信の出会い、時の権力者から弾圧を受け夫婦ともども越後へ流罪に、さらに師である法然上人との約束を果たすため関東の地へ、20年を経て京の都に戻るも間もなく二人は別れ別れに……、こうした苦難と感動のシーンが、末娘へ宛てた恵信の手紙(1921年に発見)をもとに次々と再現されます。
親鸞役の嵐芳三郎さんやその師である法然役の藤川矢之輔さんはじめ、アンサンブルのとれた舞台のなかで、ひと際印象に残ったのが恵信尼役の浜名実貴さんです。親鸞聖人が僧侶として初めて妻帯したことは知っていたものの、初めて僧侶を夫にもった人として恵信尼を考えたことはありませんでした。本作品では二人を、偉人とその妻といった“夫唱婦随”の関係ではなく、共に念仏を広める“伴走者”として描きます。浜名さんは若い時分から幅広い世代の恵信尼を演じ分け、何より落ち着いた声は役にピッタリだと思いました。
そしてわが稲門会仲間の女優・有田佳代さんは、その二人の末娘・覚信尼(かくしんに)という今作でも重要な役どころ。母の恵信が病気の長女を支援するため越後に旅立った後、父・親鸞の京での布教をかたわらで支えます。「尼僧の役は初めて」とのことですが、舞台上の有田さんは法衣姿も似合っていて、よく通る声で末娘らしく親思いの真っすぐな心情を表現し、難役を見事に演じ切っていました。

右から2番目が有田さん

次回は5月11日~20日の間、池袋の「東京建物Brillia HALL(ブリリアホール)」で行われる前進座歌舞伎公演を観劇する予定です。主な演目は、女優と女流義太夫・女性の囃子方による舞踊『雪祭五人三番叟(ゆきまつりごにんさんばそう)』と歌舞伎十八番のひとつ『鳴神(なるかみ)』。会員の有田さんは、五穀豊穣を願って板を踏みしめ踊る『雪祭三番叟』に出演します。雪の降りしきるなか、躍動的な演奏に乗せてピタリと揃う5人の踊り手の一挙手一投足に、観客の皆さんは目も心も奪われることでしょう。
なお「観劇の会」では、メンバー以外の稲門会会員(パートナーの方も歓迎です)のご参加をお待ちしています。次回の観劇の日時など詳細は改めてお知らせしますので、どうぞ奮ってご参加ください。

1980年一文(西洋哲学)卒 松永 忍

『霧の旗』と『張り込み』

連日の猛暑の真っただ中7月27日、松本清張朗読劇シリーズ『霧の旗』と『張り込み』を座・高円寺2で鑑賞。

松本清張(1909-1992)は戦前から前進座の熱心なファンで、1968年より大佛次郎・海音寺潮五郎・井上靖・水上勉と5人で前進座を応援し、次代の育成に尽くしていたことを知りました。

前進座での清張作品の上演を縁に、2003年より北九州市松本清張記念館プロデュースで本朗読劇シリーズがスタートした。今回の2作品の劇化は東京初上演として、人気の名作を取り上げている。

本朗読劇『霧の旗』では、当会員で前進座の女優有田佳代さんが、復讐に執念を燃やす柳田桐子役を見事に演じ、これがプロの演技力と感銘。

朗読劇の魅力は演劇と異なり、声と音で楽しむこと。声優の言葉の響きや、抑揚、リズムによって演技に感情移入され情景が蘇る。

両作品の原作は昭和30年始めから半ばころに刊行されているが、劇中の場面を通して、当時の社会、世相が懐かしく思い出され、あらためて朗読劇の奥深さ、楽しみをじっくり味わえた一日となりました。

★物語のあらすじ(チラシの紹介から引用)

『霧の旗』:桐子は兄の弁護を大塚欽三に懇願するが断られ、兄は汚名を着せられたまま獄死•••。桐子の大塚に対する復讐が始まった。法と裁判の不条理を描いたサスペンスの名作。

『張り込み』:平凡な日常生活を送っている主婦が、ある日突然非日常的な危うさに遭遇し、一瞬の生命を燃やす。清張自身「私の推理小説の出発点」とする記念碑的作品。

参加者:緒方章夫妻、上田尚亮、坂場正勝、原田一彦、山本孝之、古賀良郎(記)7名

演目二題 『魚屋宗五郎』『風薫隼町賑』

キャスト

  • 魚屋宗五郎・・・・藤川矢之助
  • 女房 おはま・・・河原崎國太郎
  • 妹 おつた・・・・玉浦有之祐
  • 悪侍 典蔵 ・・・松浦海之介
  • お助侍 紋三郎・・嵐市太郎
  • 腰元 おなぎ・・・早瀬栄之烝

『魚屋宗五郎』

(序幕)端(はな)からただならぬ物語の展開を予想させる舞台。
迷子の仔猫を探しに来たおつたに執拗に言い寄る侍・典蔵。
手籠めにされかけたところに、宿直の侍・紋三郎に助けられる。
典蔵は腹いせに紋三郎とおつたは不義密通をしていると言って、おつたの奉公先、磯部の屋敷へ垂れ込む。
おつたを愛妾にしている旗本・磯部は、腹を立てておつたを手討ちにしてしまう。

(二幕)宗五郎の体は怒りで震えていた。妹のおつたが手討ちにされたなど信じられなかった。おつたを見染めて屋敷へ上がらせた旗本の磯部がそんな非道いことなどするはずがない。
ところが、今しがたおつたと仲良しだった磯部家の腰元おなぎが手土産の酒を携え、訪ねて来た。涙ながらに語るおぞましいおつたの最後に宗五郎家族は言葉を失う。
仏壇に手を合わせる宗五郎の背中は、観客に一族の口惜しさを伝えている。
至芸の演技力が光る。
酒癖の悪い宗五郎は金毘羅(こんぴら)様に願を懸けて禁酒をしていた。
「おはま、酒を注(つ)いでくれ!」誓いを破り、湯飲み茶碗を差し出す宗五郎。
腰元おなぎの手土産の酒をのみほし、すっくと立ち上がる。
「俺あ、今から磯部の屋敷へ行ってくらあ。事の次第を納得するまで聞いてみらあ」
酒に沈んだ怒りが旗本の屋敷へ向かわせようとしている。
家族の制止を振り払って、腕まくりをした宗五郎は花道を駆けていくのだった。

(三幕)宗五郎に詰め寄られた磯部は、自分の非を認め手を突いて詫びる。
すると宗五郎は、あっさり受け容れてしまう。「この場面は大歌舞伎では上演するが前進座では初代の中村翫右衛門以来、大正・昭和の戦前・戦後を通しても一度たりとも上演されたことはありません」
私のインタビューに答えてくれたのは、古参の女優さんだった。
「なぜだろう」私の質問に彼女は小首を傾げて幕間に消えた。
前進座の「意志」かもしれませんね。
皆さんへの「宿題」とさせていただきます。

『風薫隼町賑』舞踊かっぽれ

江戸の華。賑やかな演出である。男優女優が花道を「ホイッ、ホイッ」と掛け声も勇ましく舞台へと進む。
その中で、ひときわチャーミングな女優さんが、早稲田席にすわる私たちに美しい笑顔を投げかけ、手を振って小走りに花道を駆けていく。
わが校友女優・有田佳代さんだ。私たちも「オーツ!」と応える。
舞台には浴衣すがたで二十数名の役者が勢揃いだ。鉦(かね)や太鼓そして三味線の音色に合わせて、「かっぽれ、かっぽれ」の大合唱が湧きおこり、浴衣すがたの男優女優らが踊り出す。観客席からも合いの手拍子が鳴りひびく、観客と舞台が一体となって織りなす壮大なドラマが拡がっていく。
そこへ上方の囃家(はなしか)の桂米團治師匠が飛びこんで来る。宗五郎役の矢之輔と腰をくねらせて踊り出す。実にしなやかで美しい。
『舞踊かっぽれ』の起源は江戸の文化・文政時代にまで遡るようだ。
風薫初夏の江戸。市民らの心は浮き立ち、町角の大道芸人の鉦や太鼓、三味線の音曲は、軽やかで明るい。
「かっぽれ」=岡惚れ=よこしまな恋(語源)
幕府やお上が認めない恋を堂々と音曲にのせて実行する江戸っ子らの心意気に、ただ敬服するばかりです。

山本孝之(S41教英文)

左から2番目が有田さん
左から6番目が有田さん

演劇メンバー(五十音順・敬称略) 坂場正勝(会代表)・指宿卓兄・大久保健二・緒方章ご夫妻・古賀良郎 佐藤美子・宿利忠・原田一彦・日留間治男・松永忍・山本孝之(12名)

次回予定

演目
『あかんべえ』(宮部みゆき作)
日時
10月12日(木)
入場料
校友観劇の会員割引
お申込み
観劇の会代表・坂場正勝まで

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